死は生の対極としてではなく、
その一部として存在している。
「今日は珍しく真剣だったじゃないか」
と僕は訊いてみた。
「今日は負けたくなかったんだよ」
とキズキは満足そうに笑いながら言った。
彼はその夜、自宅のガレージの中で死んだ。
赤いN360の排気パイプにゴム・ホースをつないで、窓のすきまをガム・テープで目ばりしてからエンジンをふかせたのだ。
次の土曜日に直子は電話をかけてきて、
日曜に我々はデートをした。
たぶんデートと呼んでいいのだと思う。
それ以外に適当な言葉を思いつけない。
なぜ彼女が僕に向って
「私を忘れないで」と頼んだのか、
その理由も今の僕にはわかる。
「あなた馬鹿ねえ」と緑は言った。
「知らないの?勘さえ良きゃ何も知らなくても大学の試験なんて受かっちゃうのよ。
私すごく勘がいいのよ。次の三つの中から正しいものを選べなんてパッとわかっちゃうもの。」
「じゃあ私、革命なんて信じないわ。
私は愛情しか信じないわ。」
「ピース」と僕は言った。
「ピース」と緑も言った。
直子が死んでしまったあとでも、
レイコさんは僕に何度も手紙を書いてきて、
それは僕のせいではないし、
誰のせいでもないし、
それは雨ふりのように誰にもとめることのできないことなのだと言ってくれた。
「全員で寮の中からまわりの林まで
しらみつぶしに探したの。
探しあてるのに五時間かかったわよ。
あの子、自分でちゃんとロープまで
用意してもってきていたのよ。」
しかしそれは我々が学ばねばならない
真理の一部でしかなかった。
直子の死が僕に教えたのは
こういうことだった——